東京地方裁判所 昭和48年(ワ)1055号 判決 1973年5月30日
主文
一 被告は原告に対し金七一五、九二八円およびこれに対するうち金七〇九、一二〇円については昭和四八年一月一日から、うち金六、八〇八円については昭和四八年二月二六日から、支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は第一項にかぎり仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
(一) 被告は原告に対し金七一七、九二八円およびこれに対するうち金七〇九、一二〇円については昭和四八年一月一日から、うち金八、八〇八円については昭和四八年一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
(三) 仮執行の宣言。
二 被告
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
(一) 原告は被告に対し、いずれも弁済期を昭和四七年一二月三一日と定めて次のとおり合計金七一一、〇〇〇円を貸付けた。
1 昭和四七年 九月一〇日
金一〇〇、〇〇〇円
2 同年 同月二五日
金三五〇、〇〇〇円
3 同年 同月三〇日
金 四五、〇〇〇円
4 同年一〇月一四日
金一六六、〇〇〇円
5 同年 同月一九日
金 五〇、〇〇〇円
(二)1 原告は被告の依頼により被告の函館からの上京旅費の一部合計金一八、一二〇円を次のとおり立替えて支払つた。
(1) 昭和四七年 九月三〇日
金 一、〇〇〇円
(2) 同年一〇月一〇日
金一二、一二〇円
(3) 同年 同月二四日
金 五、〇〇〇円
2 原告は同年一二月三〇日被告に到達した書面で右立替金を同月末日までに支払うよう請求をした。
(三) 原告は昭和四七年一〇月一七日から昭和四八年一月六日まで十数回にわたり被告に対し右貸金、立替金の支払を電話で催告し、日本電信電話公社あてその電話料金として合計金八、八〇八円を支払つた。これは債権取立費用もしくは債務不履行による損害金として被告の負担すべきものである。
(四) ところで被告は請求原因(一)5記載の貸金のうち金二〇、〇〇〇円を弁済したので、原告は被告に対し貸金(右金二〇、〇〇〇円を控除する。)、立替金、電話料金の合計金七一七、九二八円およびうち貸金立替金の合計金七〇九、一二〇円に対する弁済期の翌日である昭和四八年一月一日から、電話料金八、八〇八円に対する昭和四八年一月七日から、各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。<後略>
理由
一貸金
(一) 原告が被告に対し請求原因(一)1245記載の日に同記載の金額を貸付けたことは当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果によれば、原告が被告に対し同(一)3記載の日に同記載の金額を貸付けたことを認めることができる。
(二)1 <証拠>によれば、原告と被告とは前記各貸金につき、それぞれ弁済期をおそくとも昭和四七年一二月三一日と定めたことを認めることができる。
2 被告の主張によると請求原因(一)1記載の貸金は不確定弁済期限付、同(一)4記載の貸金は未到来の確定弁済期限付であるというが、弁済期は前記のとおりであるから、右主張は理由がない。
同(一)2記載の貸金につき、<証拠>によれば利息の約定があつたことを認めることができるが、更に進んで被告において利息さえ支払つておけば弁済期限を猶予する約束が成立したことを認めるに足りる証拠はない。
二立替金
(一) <証拠>によれば、原告が被告に対し、請求原因(二)1(1)ないし(3)記載の日に航空運賃等として同記載の金額を立替えて支払つたことを認めることができる。
(二) <証拠>によれば、原告は昭和四七年一〇月一七日以降再三被告あて右各立替金の支払を電話で請求していたが、同年一二月三〇日被告に到達した書面で右立替金を同月三一日までに支払うよう請求したことが認められる。
三電話料金
(一) 原則
1 催告費用
原告が主張する催告のための電話料金は、被告の履行遅滞による損害というよりも、所謂取立費用であるから、これを原告被告のいずれが負担すべきかを検討する。
2 取立費用
取立債務については債権者が取立費用を負担すべきことは理の当然であるが、本件のような持参債務については以下の理由により必要な範囲に限りこれを債務者の負担とするのが相当である。
(1) 民法は取立費用につき何ら規定しないが、弁済費用につき、原則として債務者の負担と定めているので(同法四八五条)、これを類推適用する余地がある。
(2) 民事訴訟法八九条は訴訟費用は敗訴者の負担と定めるから、債権者が勝訴すれば、訴訟費用は債務者の負担となる。同法五五四条は必要な範囲の執行費用を債務者の負担と定めている。そして訴訟費用、執行費用は債権を公権力により強制的に取立てるための取立費用に属するから、法は必要な範囲の取立費用を債務者の負担と定めたと解することが可能である。
(3) 債務者が債務の履行を遅滞したとき、債権者はまず訴訟外において内容証明郵便、電話等で催告などをして弁済を求めるのが通常であり(民法一五三条は裁判外の催告でも一定の時効中断の効力を認めている。)、またこれは債務者が履行を遅滞したことにより債権者が止むを得ず行うものであるから、この費用は債務者の負担とするのが衡平の原則に適するということができる。
(4) 債務者が債権取立に不必要であつた取立費用を負担すべきいわれはないから、債務者が負担する取立費用は必要な範囲に限られるべきである。それ故債権者が弁済期到来前に履行の催告をしたため生じた取立費用は、債務者が弁済期前にすでに債務超過の状態にあり支払不能の状態に陥つたような場合を除き、法律上不必要な行為に属するから、これを債務者の負担とすることは許されないというべきである。
(二) 本件への適用
右の見解に従つて本件をみるに、前記貸金の弁済期は昭和四七年一二月三一日であるが、右立替金の弁済期は当初その定めなく、原告がその後同年一〇月一七日ころおよび同月二四日以後電話で請求したことによりその履行期が到来したことは前記のとおりである。<証拠>によれば、原告は昭和四七年一〇月一七日から昭和四八年一月六日までに十数回にわたり被告に右各債務の弁済を併せて催告し、そのため少なくとも六、八〇八円の電話料金を支出していることが認められる。これらの中には貸金の弁済期である昭和四七年一二月三一日以前における貸金の弁済の催告も含むけれども、右各催告は、弁済期到来した立替金の催告と併せてなされた以上、これら電話料金の支出は取立のため必要であつたというの外はない。
四結論
よつて原告の貸金、立替金の内合計金七〇九、一二〇円およびこれに対する弁済期の翌日である昭和四八年一月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求および電話料金のうち金六、八〇八円と、これに対する本件訴状の送達により請求した翌日であること記録上明らかな昭和四八年二月二六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求については理由があるから認容し、原告のその余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を適用し、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(沖野威 大沼容之 南敏文)